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#Message#
\>
\>「ああ、神様……
\>　どうか。この家に救う悪魔が、
\>　一刻も早く消え去りますように……」
##


#Message#
\>――こんな風に十字を切って天に願う程、
\>私は信心深い性格ではない。
\!\>精々が、青春を戒律の厳しい一貫校で過ごした位で、
\>別に敬虔な門徒ではありはしない。
##


#Message#
\>
\>それでも、最近の私は重い溜息をする事が増えて。
\>その原因の多くは、息子のことだった。
\>
##


#Message#
\>幼い頃の息子は、とても愛らしかった。
\>女の子みたいに整った顔立ちをしていて、
\>けんかを好まない、とても大人しい子だった。
\>
##


#Message#
\>しかし――いや、今にして思えば。
\>だから、と言うべきだろうか……
\!\>結論から端的に言えば、私の息子は、
\>「まとも」ではなかった。
##


#Message#
\>中学に入学した我が子は、
\>その大人しさから、早々にいじめの標的となった。
\!\>勉強も続かず、スポーツは元より苦手だった事もあり、
\>一年生の夏休み明けからずっと不登校に。
##


#Message#
\>……しかし、この事のみをもって、
\>私が息子に詰め寄って良い理由にはならないだろう。
\>あの子の苦しみに寄り添えなかったのは、
\>母親である、私にも責任があるからだ。
##


#Message#
\>
\>無論、この間も、
\>私は彼への苛立ちを募らせていた事は、
\>正直に白状しなければならないだろう。
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#Message#
\>なぜ、あの子は「普通」でないのだろう。
\!\>私達の家庭よりもっと貧乏で家柄の悪い子
\>だって当然にできる事が、できないのだろう。
\>
##


#Message#
\>あなたをここまで育てるのに、
\>いったいどれだけの労力を掛けたのか。
\!\>欠陥品に無駄金を注ぎこむならば、
\>女だがまともな姉の方を、大切にすべきだった。
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#Message#
\>……そんな、
\>母親ならば我が子可愛さに誰もが思う発想が
\>頭をよぎる事はあったが、
\>自制するよう努め続けていた。
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#Message#
\>大丈夫。うちの子は大丈夫。
\>夫は有名な上場企業に務めるエリート株で、
\>身元調査をしても何の問題はなかった。
\>
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#Message#
\>私も皇族や士族を先祖に持つ地元の名家にて、
\>良い家柄の令嬢として、
\>様々な教養と共に、大切に育てられた。
\>……だから、血筋には問題がない。
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#Message#
\>血統に問題はないだけじゃなく、
\>そんな恵まれた家の子供として、
\>息子には小さい頃から、
\>ずっと愛情をかけて育てていた筈だ。
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#Message#
\>だから、きっと……このつまづきは今だけで。
\>息子は当然一流の大学を出て、まともな会社に就職し。
\>その中で家柄の良い、金と教養のある女と結婚し。
\>そして近い内に孫の顔を見せてくれる筈なのだ。
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#Message#
\>そんなごく当たり前の普通の幸せ。
\!\>それを母親が願って何が悪い。
\!\>別に医者や大臣になれと言ってる訳でないのだから、
\>過大な期待を寄せている訳では決して無い。
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#Message#
\>にも関わらず、あの産み損ないは、
\>私の最低限の期待すらも下回ってくる。
\!\>……少々、内心の言葉が汚くなっただろうか。
\>だが、「あの時」を思い起こせば仕方あるまい。
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#Message#
\>――そう、あの時。
\!\>息子が「まとも」でない、
\>異常者であるとハッキリと判った日……
\>あれは今でも忘れやしない。
##


#Message#
\>今から十年程前だっただろうか。
\!\>あの身の毛もよだつ悍ましい出来事は、
\>私の脳裏に何度もフラッシュバックして、
\>心を激しく悩ませる。
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#Message#
\>息子が、長く伸びた髪の毛を２つに結び、
\>私のすっかり着なくなった古いドレスを着て、
\>自分の生きづらさやこれまでの違和感を告白した時、
\!\>私の視界は、怒りと失望で真っ赤になった。
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#Message#
\>
\>「どうして……どうしてあなたは。
\>　どうして、お前は、普通、じゃ、ないんだ」
\>
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#Message#
\>私は、ゼイゼイと息を吐きながら、
\>そう吐き捨てた事は覚えている。
\!\>息子の整った顔には、
\>いつの間にか無数の傷や痣ができていた。
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#Message#
\>「あなたは、母さんの幸せを
\>　台無しにするというのかい。
\!\>　――あんたは、疫病神かい。
\!\>　おまえは、私のささやかな幸せを踏み躙る悪魔かい！」
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#Message#
\>拳についた血を拭いながら、
\>私がそう言うと、悪魔は部屋に戻り――。
\>それからは、何事もないような、停滞の日々が続き。
\>……そして、今に至っている。
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#Message#
\>親戚の伝手を頼って、
\>精神病院にでも、一生閉じ込めておくべきか悩んだが、
\>私の家系から異常者が出た事実は、知られたくない。
\!\>なので、私の方から強い措置を取る事は難しかった。
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#Message#
\>……しかし、それにしても。
\>あの子は一体、何の為に生まれてきて。
\>何を楽しみに生きているだろうか。
\>心底疑問に思ってしょうがない。
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#Message#
\>出世のできない男など、惨め極まりない。
\!\>高級な外車を乗り回し、美女と交際できない男など、
\>生存競争に敗北した、
\>みすぼらしい負け犬でしかないか。
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#Message#
\>「引き籠って、何やら創作をしているのだ」
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#Message#
\>別居中の姉（この子は比較的まともだ）は
\>一度だけそう教えてくれた。
\!\>しかし、それにしては、
\>世に言う大きな賞を取る様子もなく、不思議だ。
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#Message#
\>いつか食事を取りに部屋を出た息子に、
\>「いつになったら創作で雛壇に立つのか」
\>……そう聞いた事がある。
\>
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#Message#
\>しかし、息子から答えは帰ってこなかった。
\!\>――全く。
\>結果を残せない創作に何の価値もないと、
\>小さい頃から口を酸っぱくして教えてきたのに。
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#Message#
\>小学校の自由研究発表会で、
\>努力賞しか取れなかった息子のレポートを
\>泣きながらゴミ箱に捨てた事を思い出す。
\>（無論「次は金賞を取ろうね」とフォローしている）
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#Message#
\>……全く。
\>うちの子は何時になったら、
\>金賞を取って来てくれるのか。
\>
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#Message#
\>男にも女にもなりきれず、家に引き籠り、
\>一文の価値もないゴミを量産する不毛の日々。
\>その理解できない行為を繰り返す息子に、
\>最近は憐憫さえ覚えている。
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#Message#
\>
\>「ああ、神様……」
\>
\>
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#Message#
\>ギイと扉が開いた音をBGMに、
\>私は不格好な祈りを込める。
\!\>悪魔が腹を空かせたのだろう。
\>構わず、ささやかな祈祷を続ける。
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#Message#
\>
\>「ああ、神様……
\>　どうか。この家に救う悪魔が、
\>　一刻も早く消え去りますように……」
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#Message#
\>
\>トッ、トッ……。
\>悪魔の足音は、私の部屋の前で止まった。
\>
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#Message#
\>
\>……珍しい。
\>いつもならば、ここは素通りして、
\>そそくさと台所なり向かう筈なのに。
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#Message#
\>
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\>コン、コン。
\>
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#Message#
\>ノックの音。
\>私は最初無視していたが、それはずっと続いた。
\>
\>
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#Message#
\>一体何用だ。
\!\>誰がお前を生かしてやっていると思ってるんだ。
\!\>――そう怒鳴りたくなる気持ちを抑えつつ。
\>私は、そのドアを開くことにした。
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#Message#
\>……それこそ、私の祈りが届いて。
\>少しでも世間様に顔向けできるような
\>まともな仕事でも始めようと、
\>相談に来たのかもしれないと思いながら。
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#Message#
\>
\>ドアを開く。
\>
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#Message#
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\>
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\>そこには、老けた顔で、
\>女のような格好をした、
\>痩せぎすの長髪の男が立っていて――。
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#Message#
\>
\>ドガッ。
\>
\>
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#Message#
\>私は、頭に重い衝撃を感じて
\>……そのまま意識が途絶えた。
\>
\>
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#Message#
\>しかし、何故だろうか。
\>この時、それにあまり恐怖はなく、
\>むしろ清々しい、救われたような気分さえ覚えていた。
\>
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#Message#
\>
\>「ああ、そうか……」
\>
\>
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#Message#
\>泥のような眠りに就く直前、
\>私はその感情の理由を知る。
\>そう。私の不格好な祈りが奇跡的に、
\>天へと届いていた事に気づいたからだ。
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#Message#
\>
\>私ではない、
\>男性にしては高い声の囁きが聞こえる。
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#Message#
\>「ああ、神様……
\>　どうか。この家に救う悪魔が、
\>　一刻も早く消え去りますように……」
\>
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#Message#
\>奇妙な絆。
\!\>息子もまた、私と同じ祈りを、天に捧げていた。
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